「おおらかでしたね」。
視察が全部終わった後、そんな感想を仲間と交わしました。林野庁や北海道、えりも町、森林組合などの
関係者が集まって毎年「えりも岬緑化研究部会」という集まりが開かれます。オブザーバーとして
会議に参加させてもらったのですが、面白い経験でした。会では広葉樹化がなかなか進まないこと、
シカなどの食害が深刻なこと、まだ北海道まで北上していないマツクイムシへの備えが必要なこと、
などさまざまな意見が出ました。でも、なんとなく「気長にやればいいんじゃないか」という方向で
まとまってしまう。同じ広葉樹の若木でも、人工的に植えたものはシカに食われるが自然に生えたものは
なぜか食われないのだそうで、だったら気長に自然に生えてくるのを待とう、というような雰囲気がありました。

「えりも岬の緑を守る会」緑化研究部会

「えりも岬の緑を守る会」緑化研究部会


みなさん、オイスカに参加を許してくれただけでなく、十分に発言をさせてもくれました。
多分、かけてきた時間の積み重ねに対する自信と、北海道の風土とがそういう雰囲気を
培っているのでしょうが、そうしたおおらかさが、事業全体を包み込んでいる印象を受けました。
もう一つ、襟裳岬の緑化を支えているのが地元の人びとの事業への参加で、そういう仕組みがきちんと
できあがっていることに、事業にかかわる人たちが自信と誇りを持っていることを強く感じました。
滞在中、クロマツの枝を払って広葉樹のために日当たりをよくする作業がありました。これが「育樹祭」
なのですが、始まる午後2時の1時間前、ちょうど午後1時に参加を呼びかけるアナウンスが防災行政無線で
町じゅうに流れました。平日ですから放送を聞いて実際に参加する人はほとんどいないということですが、
まるで「火の用心」を訴えるように、育樹祭を当たり前のできごととして放送していることに驚きました。
襟裳岬の緑化を学ぶ活動は地元の小中学校、高校の授業に組み込まれていますし、町内にある
航空自衛隊襟裳分屯基地からも、隊員が交代で10名ぐらいづつ行事に参加する。「育樹祭」で
目立ったのは隊員たちの迷彩服ですけれど、さらに目についたのは飾られていた大漁旗です。
緑化が進むとともに町の主要産業である漁業が活性化したこともあって、漁業者の緑化への
積極的なかかわりを象徴しているように見受けました。
えりも町の小学校、中高一貫校での教育ともリンクしている

えりも町の小学校、中高一貫校での教育ともリンクしている


大漁旗が飾られる「えりも岬の緑を守る会」育樹祭

大漁旗が飾られる「えりも岬の緑を守る会」育樹祭


名取の海岸林再生にかかわっていて、つねに考えるのが「地元」「若者」です。
プロジェクトを息長く続けていくためには欠かせない要素だからです。
いろいろ苦労はあるにしても、地元と若者を巻き込む大切さをあらためて知りました。
ひとつ気になったのは、樹齢20年あまりまで育ったクロマツがまとまって立ち枯れている区域が
あったことです。海辺の風の強い場所で、おそらく低気圧や台風による海からの冷たい強風(というより暴風)に
さらされて急激に塩をかぶったせいではないか、ということで、詳しいことは調査しているそうですが、
今後枯れ木に虫がつかないか、枯れた区域が拡大しないか、などの心配があるといいます。
たまたま海辺に昆布小屋一つ建っているだけでクロマツにあたる風の強さが変わるという話もありました。
「台風よりも爆弾低気圧」。苦労の末、根付かせた樹齢50年のクロマツが、枯れてしまう無念は想像に余りあります

「台風よりも爆弾低気圧」。苦労の末、根付かせた樹齢50年のクロマツが、枯れてしまう無念は想像に余りあります


名取でも、いまはクロマツの成長は順調ですが、何かの拍子に大きな被害を受けることがあるかもしれません。
それは自然現象か、病虫害か。襟裳岬の緑化の歴史に、息長い活動の大切さと、突発する事態の怖さと、
いろいろなことを教えられました。

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